桜 田 ハイ、
長谷川 それは結構ね、それを大事にする努力よネ。みんなに可愛がってもらうということはなかなかネ、あの娘は生意気だとか、すぐ言うのよね、ちっとも生意気なことしてないんだけど、言われる。
桜 田 そうとられやすい時期なんでしょうね。
長谷川 これから二、三年はなおさら。
残念と友紀ちゃん
桜 田 神経性胃炎でピリピリしてた時期がありました。
長谷川 いつごろ?
桜 田 デビューしてズッと、高校ぐらいまでですね。大体ちっちゃかったから、つき合う人がみんな大人の方ばっかりだから、すごく。
長谷川 でも、そんなカゲはみじんもないからいいわね。
桜 田 あたしは、ほんとに今いい位置にいるなァって思います。デビューして同じぐらいの歌手の人いますけれども、あたしは環境はとても恵まれてるし、また、いい仕事がいつも舞い込んでくるし、ほんとうに恵まれてると思いますね。
長谷川 でも、赤裸々にあんたのお友だちの中で「あんた今度いいお仕事したわネ」と言う?
桜 田 言いませんね。ちょっと上ぐらいになりますと言いますけれども、こないだ岡崎友紀ちゃんが見にきてくれたんですけど、「ほんとにうらやましいわ−」って。「よかった!」って。
長谷川 あの娘はまた、はっきりしすぎてるから。(笑)
桜 田 お友だちなんです。
長谷川 あ、そう。あのはっきりしているところが舞台へ出るといいのよネ。
一回、うち(東宝歌声伎)に出る予定だったんですよ、出られなくなって。
桜 田 言ってました、残念がってまLた。「あたしは」って。
長谷川 だから、今考えると、だれにでも運とチャンスはあるっていうこと、そのつかみ方よね。
桜 田 そうですね、タイミング。
やはり環境ですね
長谷川 だから、つかみ方のうまい人がよくて、運とチャンスをはずしてる人がずいぶん世の中にいると思う。日々の生活にしても、だんなさんの言葉と奥さんの言葉が食い違うからけんかになるんでしょ、あれもチャンスですよね。裏へ回って、スッとやりなすったらケンカもせずに実にいい家庭になると思うのに、言葉が違ったばっかりに。
桜 田 ばっかりっていうネ、ほんのちょっとしたこと。
長谷川 ああいうことが惜しいね、人間として。
桜 田 そうですね。
長谷川 あんた、若いのに偉いネ、(笑)
わたしなんかは年配者だから、それがわかるけど。
桜 田 でも、同じぐらいの、今学校へいってるお友だちと比べていろいろお話してるとあたしのほうが早く社会に出てるし、おつき合いする方が多いから、自然にいろんなこと開きますからその中で。
長谷川 そう、環境ネ、やっぱり。
桜 田 環境ですね。大いにもまれていこうと思うんです。ですから、一般の方から見たら、芸能界っていうとこは複雑で、どうこうと言われますけども、それなら、そういう複雑な中で自分は中傷されても何されてもそのことをよく解釈していこうって思っています。そういう中でもまれながら一歩ずつ成長していこうって。自分から積極的にうわ手に回ってネ、そういうこと感じますね。
あたし泣きません
長谷川 でしょうね。でも、デビュ−してから、やっぱり帰ってポロポロ泣いたり、譜面で顔隠して涙をふいたりしたことあるでしょう?
桜 田 ウフフ、帰ってからですね。ただどうしても許せないことはその人の前で言いますね、あたしはっきりしてますから。でも、泣かないですね。グッとこらえてますね。(笑)
長谷川 じゃ、今度、芝居で泣いたのは演技に泣いたわけ?(笑)
桜 田 家へ帰ると、七つも離れてる姉がいて、全部一日あったことを話すんです。それを聞いてくれる人がいることがやっぱりいいんですね。
長谷川 そら、いいね。
桜 田 姉と二人で住んでるんです。うちの姉は全くこういう世界を知らないでしょ。それが逆にいいんだと思いますね。あたしが「もう、疲れたッ」って、きょうこういうことがあったって言うと、「何言ってんですか」って。そうやってしかってくれる人がいるっていうのは幸せですね。
長谷川 淳子ちゃんなんかデビューしてから、何か人の前へ出ていかなきゃならない、一生懸命やんなきゃという努力はしたんでしょう?やっぱり。
桜 田 ハイ。
長谷川 簡単にいってどういうことしたの?
桜 田 例えば皆さんスターになるんだっていうんでオーディション受けたり、大体がそうですけど、あたしの場合はほんとに好きだから、歌もお芝居も、そういう芸が好きなんですね。小さいころから好きだからただ、これで将来ズッとやっていければそれでいいんだっていう、そういう夢があって、そのようにズーッとやってきたっていう感じなんですね。だから、人よりも一歩前進していたいなっていうことじゃなくて、いつも楽しいお仕事ができればいいっていうんですね。
秋田弁の京都弁で
長谷川 中学三年で思い切って出てきた時は不安だったでしょう。
桜 田 そうですねえ、おじさんの家に預けられたんです。
長谷川 親御さんも偉いよネ?
桜 田 うちのおじさんの家が東京にあったんで、じゃ預けようっていう気になったんで、それまではずいぶん反対されました。やはり小さい娘だったから、末っ子の。
長谷川 でも、ちゃんとした生活してるからいいのネ。うんとお金持ちか、うんと下の生活だと許さなかったろうと思う。日本人ってメンツにこだわるから。
−−秋田に帰ると、秋田弁が出ますか?
桜 田 出ますね、ハイ。でも、イントネーションがちょっと違うぐらいで、そんなにひどくはないです。
長谷川 舞台では京都弁がなかなか上手だったね。譜面にしるしつけるとか何とか苦労するやろなと思ったけど、割に口移しでできたから、やっぱり歌をやってるカンだよネ。
桜 田 秋田弁の京都弁(笑)、チャキチャキの江戸っ子だったらできなかったんじゃないかしら。
長谷川 スラスラと言わなきゃなんないところを探りながら言うからね。可愛い役やったからあの探りがとってもニュアンスになったんですよね。ところでもう成人?
桜 田 そうです。四月で。来年一月十五日成人式。
長谷川 ということはデビューしてもう六年?
桜 田 そうです、六年目になります。
長谷川 恐ろしいネ。(笑)
桜 田 四十七年の十月二十六日の朝、東京へ出てきたんです。
きびしいお友だち
長谷川 その時のこと覚えてる?どうでした。
桜 田 覚えてます。お友だちに見送られて出てきたんです。そのお友だちというのが厳しいお友だちで、いざ歌手になるって言ったら、分厚い手紙を手渡してくれましてね、九月の「スター誕生」っていう番組に優勝してから十月二十六日までのわたしについて書いてあるんですが、その内容というのが、歌手になると決めてからのあなたはとても高慢ちきでどうのこうのって。でも、それではこれから芸能界でやっていけませんよって書いてあるんです。ほんとにいいお友だちがいるんですけど、それを読みながらポロポロ泣いて「ああ、あたしはほんとにこんなちっぼけな人間だったのかしら」ってシクシク、シクシク泣いて、大いに反省しましたね、そのお友だちのお手紙で。
長谷川 夜行列車ですか。
桜 田 そうです。映画みたいなんですけど先生がちょうど音楽の先生で、指揮をして下さって「故郷」を歌って、お別れをしたんです。ホームで。
長谷川 そりゃ、劇的。
桜 田 劇的なんです。
長谷川 帰るわけにいかんネ。(笑)
桜 田 そのお友だちの言葉はききましたね。
長谷川 最初にそういう言葉があってよかった。
桜 田 そうですね。いつもそのことだけ頭に残って。
長谷川 いいお友だち持って、周囲の人もいいから淳子ちゃんもいいよネ。初舞台も成功したし……。
桜 田 でも初舞台で、あたしがただ一つ悔しいのはネ、客席に座って見られなかったってこと。(笑)それほんとに悔しいです。
長谷川 「淳子ちゃーん、いいよォ」って言われるたぴに「見たいわ」でしょ。
桜 田 本当に見たかったワ。
〔一夫敬白〕東宝歌舞伎「お半長右衛門」で一カ月間、舞台を共にしましたが、気立てのいい素直な娘さんです。とてもいい性格で、からっとして、しかもがんばりやで、礼儀正しい。対談の中でもいったことですが、このまま、ずっと伸びてくれれば、すばらしい女性になることでしょう。これからもずっと外側から眺めていきたいと楽しみにしています。
次回ゲストは『歌の女王・
美空ひばりさん』です。
|