"My Pure Lady" Junko Sakurada

桜田淳子資料館

『内藤国夫の取材現場』

芸術選奨新人賞に輝く独眼竜の妻桜田淳子

28歳−。女盛りの『愛姫』が思い描く理想の亭主像は

15歳で歌手デビュー、28歳で女優として新人賞・・大器晩成の桜田淳子は今、「結婚願望」を温めている。

「まだ三分咲き」で見せる円熟度

 内藤 桜田さん、「遅咲きの淳子」って言われるのですか。

 桜田 初めて聞きます。マスコミのどなたかが言ったのかもしれません。大器かどうかはともかく、自分では晩成型と思っております。

 内藤 それとご自分の将来について早い段階から「三十歳までは結嬉しない」とか、「こういうことをしたい」と、はっきり方向づけをなさっておられますね。

 桜田 計画性があるようで、ないんですけど、ただ自分の直感みたいなものを信じます。結婚については三十歳までしないというより、できないだろうと。人生経験を重ねてから結婚したい。子供の時にもう、そう思っていたんです。

 内藤 単なるアイドル歌手にとどまらず、舞台に情熱を注ぎたいとも言っておられた。

 桜田 子供のころから日記をずーっとつけておりまして、大勢の人の前でお芝居するのが自分に向いている、なんて書いているんです。そのころから、まじめに心の奥に秘めていました。

 内藤 その青写真、将来計画のなかに芸術選奨を貰うってのもあったのかしら。

 桜田 いえ、こういう嘗があることも知りませんでした(笑い)。『アニーよ銃をとれ』で芸術祭優秀賞を受けたり、何か芸術にご縁があるのかしら。

 内藤 いずれにしても、計画よりハイべ−スで高い所まで到達しちゃったって感じですか。

 桜田 到達はしてないです。これからですよね。頂いたのも新人賞ですし(笑い)。まあまじめにコツコツと好きな舞台に取り組んできたので、これから頑張れよっていう意味の賞じゃないかと思っているんです。

 内藤 芸術選奨の価値。

 桜田 分かりません(笑い)。ロケ先で知り合った知事さんとか町長さんなど各方面からお花や祝電が届き、歌の新人賞と違って、お国から頂くものは名誉があるんだって(笑い)。周りで騒がれ、これは大変だって感じになっています。

 内藤 新人賞という名称に違和感を覚えた。もう中堅のイメージが僕らにはあるものね。

 桜田 中堅ですかねえ。

 内藤 知名度ではベテランだ。

 桜田 ベテランはテレくさいですよ。舞台でも山内五十鈴先生とかの先輩ばかり。私より若い人は、あまりいません。

 内藤 三十歳から四十歳ころに女の盛りの役を演じたい、とも楽しみにしておられましたね。

 桜田 何となく三十歳に目標をおいたんでしょうかね。この4月で二十九歳になるんですけども、今はもう本当の仕事ができるのは、四十過ぎてからと思っています。四十になったら、五十って言うでしょうけど。

 内藤 こうなったらもう、山田五十鈴さんの域にまで、と?

 桜田 いえいえ(笑い)。私にとっては趣味がそのまま仕事になったみたいなもの。好きでやっており、極めるところまでとは考えていません。

 内藤 今、何分咲きかしら.

 桜田 三分咲き(笑い)。

 内藤 一緒に芸能界入りして、まだ残っている人いますか。

 桜田 歌では石川さゆりさんです。ほかにはいません。十五歳と早いデビューで、今、その年齢の子を見ると、とても子供っぽくて、よくこんな若さでと改めて考えさせられます。

吉永さんと比較なんて……。

 内藤 歌手から女優に転ずる入って、少ないのでしょう。

 桜田 いしだあゆみさんも、そうですね。私の場合は、しかし本当はかわいい歌手ってイメージが強すぎて、大人の歌を歌うってことになると、よっぽど大変身を遂げなければ……。

 内藤 あ、そうか。歌手を続けるのが、より大きな変身で、女優になるほうが、桜田さんの場合は抵抗が少なかったんだ。

 桜田 そう、少ないです。歌手としてもステージで全身を使い演技していた。子供のころから芝居っ気がありましたしね。歌手になってからも、舞台に立つチャンスを早くつかもうと。

 内藤  桜田 さんに女優の才能ありと認め、目を開かせた恩人。

 桜田 長谷川一夫先生との出会いですね。才能があるとは言ってくださらなかったけど。初めて舞台に立って、これこそ本当に自分の職場がやっと見つかった気がしたんです。狭いブラウン管の中で締めつけられていたのが、解放され、一気に爆発したみたいな。もう自由自在に舞台で全身を動かしました。その居心地のいいことといったら。

 内藤 幸せな処女舞台だ。今から何年前のことですか。

 桜田 昭和53年ですから、十年前ですね。使う側からすれば歌手芝居≠ノなるかもしれない危険があったのに。

 内藤 スカウトのきっかけ。

 桜田 『おはん長石衛門』道行を長谷川先生がずっと混めておられ、吉永小百合さんの起用を望まれたそうです。映画一筋の吉永さんが断られ、石坂洋次郎先生の『若い人』に出ている私を東宝の人が見て推薦されたと、後で開きました。

 内藤 へえ、桜田さんは何かと吉永さんにたとえられるんだ。

 桜田 そうみたいですね。路線というか、かわい子ちゃんが当時はやっていたからかしら。

 内藤 吉永さんが『いつでも夢を』を歌っておられたのが……。

 桜田 35年とかです。私が生まれたのが33年ですけど(笑い)。

 内藤 吉永さんと比較されて、どんな感じですか。

 桜田 比較はされません。とんでもないことです(笑い)。

 内藤 貸間攻め忙しちゃってご免なさい。料理をどうぞ。

 桜田 地裁に行ったことがあるんですけど、その時みたいな気がしちゃって(笑い)。

 内藤 アハハ、尋問されてるというわけか。

 桜田 ええ、『週刊ポスト』の芸能人交歓図みたいなことありましたでしょう。それで私、法廷に呼ばれたんです。

 内藤 僕の桜田さんについてのイメージでは『浮つくし』でのあの意地悪役が強烈です。

 桜田 ああ、あれ。でも意地悪役なんて言わないでください(笑い)。進歩的な役です。最後には手助けもしてますし。

 内藤 見事に演じておられた。

 桜田 やっている時は、あの役が嫌いでした。まず考え方からして(笑い)。反体制は私、好きじゃないんですよね。ただ、役としては今になると懐かしいです。自分と全く正反対の役をやるのは面白いですね。

 内藤 そこが歌手との違い。

 桜田 歌手は自分のイメージを大事にしていればいい。女優の肩書が付くと、何でも演じるのが当たり前になります。

百恵引退ショック≠フ真相

 内藤 女優・桜田淳子の一日って、どう過ごすのですか。

 桜田 普通のOLと変わりません。今は月曜から木曜まで『独眼竜政宗』の収録で毎日NHKに通い、金・土のいずれかに取材が入り、日曜が休みで料理を作ったり、掃除したり。

 内藤 丸一年NHKに縛られ、芝居ができないわけ?

 桜田 10月の終わりまで、私気まぐれなので三泊四日ぐらいの旅にふらっと出かけたり、芝居を見たりと、お仕事のほうは楽しんでゆったりやってます.

 内藤 テレビの連続ドラマ出演と芝居はかけ持ちできないの?

 桜田 そうですね。残念ながら、とてもできません。

 内藤 歌はやめたわけだけど、テレビと芝居と映画のそれぞれにかける比重はどれくらい。

 桜田 映画はほとんどやりません。一年かけて撮った『またぎ』のパート2がこの秋、上映されますけど。一番楽しいのは舞台です。現場が楽しければ、それだけで満足しちゃうわけ。 内藤 テレビに比べると、芝居は投資効率が悪いでしょう。

 桜田 でも今、A席は七千、八千円もする。遠くから高いお金を払って見にきてくださる。セリフをトチったりすると、申し訳なくて入場料のお金を全部返してあげたくなります(笑い)。

 内藤 感動を観客と共有できるのが、芝居の良さでしょうね。

 桜田 そう、とにかく心地がいいです。二千、三千人のお客様が自分をじっと見つめるなかでライトを浴びて芝居する。この緊張感は素晴らしいものです。

 内藤 処女舞台以来の充実感が続いている。幸せですね。

 桜田 お芝居やっている時は顔まで違ってきます。締まっているというか、私の好きな顔になる。余計なことを考えず、本当に集中できるし、ストレスだって解消しちゃう(笑い)。

 内藤 心底、芝居が好きなんですね。どういう仕事をするか、主体的に選択できますか。これは嫌だよとか言いながら。

 桜田 嫌だよという言い方はしませんけどね(笑い)。三つあるうち、どれにしますかとなるわけです。自分にとっていい仕事になりそうなのを、他人の意見を開いたり、自分の勘で選んだりします。

 内藤 念顧の『マイ・フェア・レディ』のイライザ役、まだやっておられませんが。

 桜田 今は『アニーよ銃をとれ』のイメージを引きずっていますからね。脚本も似ている。一度全く違う役をやってからにしたい。三十二、三歳の時にやれるといいですね。

 内藤 そうか、まだお若いので、これからいろいろな役に挑戦できるんだ。幸せですねえ。

 桜田 そう、ただただ若いことに感謝して(笑い)。舞台は年をとればとるほど、やることがいっぱい待っている感じです。

 内藤 女優になる以前、歌手になったことが回り道だったとはお考えになりませんか。

 桜田 アイドル歌手って言われるのが、ものすごく嫌な時期はありました。それで名前を売ったんだし、ステージ度胸も身に付けた。自信も付いたんです。今は元アイドル歌手でよかったと思ってます。

 内藤 山口百恵、森昌子との三人娘≠熏。は昔ですね。

 桜田 三人は本当に仲良しだったけど、世間はどうしても三人を競り合わせたがった。”VS′にしたがるんです。ミッキー安川さんから「本当は仲が悪いんだろう」と言われて、泣き出しちゃったこともある。十五歳前後で潔癖だったし、正義感が強かったんでしょうね。

 内藤 百恵さんの結婚と引退で百恵ショック≠ノ悩んだ時期が本当にあるのですか。

 桜田 ありました。先を越されたとかいうのではなく、同じ職場の人間が.パッと姿を消し、何か力が抜けちゃった。やっぱり好敵手だったんでしょうか。

 内藤 三人娘は今も交流中?、

 桜田 時に電話をするぐらいで、ほとんどありません。

 内藤 今になってみると、三人娘の歩みがすっかり違ってしまった。やはり、桜田さんの大器晩成ぶりが印象的ですね。

 桜田 どうでしょうか。私などまだまだです(笑い)。

 内藤 「桃は咲いたが、桜はまだかいな」とも言われてた。桃は花が散って、実(子供)が二つもできちゃった(笑い)。

 桜田 そう。引退までしなくても、と思ったこともありますが、今はもうあきらめました。

結婚をイベントにしたくない

 内藤 結局は志の高さの違いでもあるのでしょう.桜田さんは結婚しても引退しないのでは?

 桜田 結婚と仕事とは、全然別なんだって思います。

 内藤 三十歳までは結婚しないと言った、その三十歳を目前にした今の心境をどうぞ。

 桜田 ものすごく結婚したいんです。でも、ご縁がないんです(笑い)。

 内藤 「三十歳までは」の発言が妨げになっているのですよ。

 桜田 私が言ったのがいけなかったのかなあ。姉が三十四歳で結婚し、子供を抱いている姿を見て、私も本当に結婚したくなった。無償の愛っていうんですか。勝気な姉が、すっかり柔らかな女性になって驚いています。尽くしに尽くす姿が、とても羨しく思われるんです。

 内藤 なるほど。これで見出しも決まった。『芸術選奨の次は結婚で無償の愛を』(笑い)。

 桜田 一人暮らしが気ままでしょうけど、私にはできない。家庭がすべての基盤なんです。いまだに姉夫婦の家に居候しているぐらいですから.

 内藤 家庭を基盤の結婚願望。

 桜田 ウフフ。家族の理解があってこそ、外の仕事もできると思うんです。本当のことを言ってくれるのも家族です。家族なしに仕事はやっていけないと思うんですよね。独身で仕事一筋の人生なんて、絶対に考えられません。

 内藤 強い斬望のあることが、よく分かりました(笑い)。

 桜田 子供を産みたいので、三十二、三歳で結婚するだろうとは思うんです。問題はそういう人がいるかどうかですよね。突然に現れると期待しているんですが(笑い)。

 内藤 結婚に至るプロセス。まずお見合いするつもりは?

 桜田 これだけ顔を知られちやっているので、お見合いは、できないのじゃないですか。

 内藤 百恵さん、昌子さんみたいに同業者と結婚する可能性。

 桜田 感じですけど、ありえないと思います.これまでに出会ったことの全くない人と結婚するんじゃないですか。突然、柵からポタ餅のように。

 内藤 この記事がきっかけ、呼び水になるといい。二人だけのデートはおっかないと、どこかで喋っておられましたね。

 桜田 十年も前のことです。もう平気です。やっと、はい。

 内藤 これまでのデート経験。

 桜田 ありますよ。ただデートと言えるかどうか。

 内藤 プロポーズされたこと。

 桜田 これは本当にありません。プロポーズしてもいいですよっていう余裕を、こちらが見せないからですかねえ.

 内藤 好きな男性のタイブ。

 桜田 これがコロコロと変わっちゃう(笑い)。信じたことに向かっていく、女性でいえばジャンヌ・ダルクのような人。

 内藤 相手の年齢層は?

 桜田 上であればいいんじゃないですか。少なくとも精神年齢の高い人。私、末っ子なので年の下の人とのお付き合いが下手なんです。

 内藤 これまでに浮いた話。

 桜田 ありますよ、いくつかは。だけど本当に秘めた話は、皆さん引き出せなかったみたいです。私、秘密主義者なので。

 内藤 結婚も秘密に、かな。

 桜田 そう、結婚をイべントにはしたくない。気がついてみたら子供もできていた、というふうになりたいですね。

 内藤 最後に、あなたの顔で好きなところは?

 桜田 丈夫な肌です(笑い)。

 内藤 大きな目が印象的です。

 桜田 そうですか。はっきり見えず役立たずの目ですけど。

 内藤 雄弁ならざる雄眼≠ナ表情に富んでいる。

 桜田 「クリクリとよく動く目」なんて書かれますけど、鋭い目にはなりたくない。存在するだけで周りの突気が温かくなる、心優しい人になりたいと思っているんです。

取材再見メモ

志の高さがあればこそ

 アイドル歌手と一時もてはやされても、歌手としての寿命は長くて五年、平均すれば二、三年の短さだろう。

 萩本欽一氏の司会する『スター誕生』全盛時に、軽い気持ちで応募し、芸能界入りした桜田淳子さん。アイドル歌手ともてはやされながらも、安住することなく、さらなる飛躍を胸に秘め続けた。だからこそ単なるアイドル歌手にとどまらず、今は大女優への道をまっしぐら。

 歌手であり続けるのには大変身が必要で、女優になるほうが、それほどの変身を必要としなかったとの話は面白くもあり、「なるほど」とうなずけるのだった。

 人生は計画し、計算しても、なかなか思いどおりにはならない。だが、高い志を持っていれば、いつかきっと道が開ける。

 そう教えてくれる見本のような存在が、桜田淳子さんである。

 結婚するの、しないの、引退して専業主婦になるの、ならないのと記者会見しては大騒ぎ、結婚そのものをイベント化する芸能界の悪しき風潮を、桜田さんは苦々しく批判的にとらえておられたようだ。

 この数年内に、爽やかでスマートな結婚式をして、桜田さんは自然体のもと、独身に別れを告げることになるだろう。そのためにも相手に恵まれなければならない。強運に期待し、楽しみに見つめたいものだ。

(内藤)


※ インターネット用に見やすいように一部編集していることをご了承ください。(管理人)


 戻る 


FC2


inserted by FC2 system