"My Pure Lady" Junko Sakurada

桜田淳子出演 舞台

「女坂」(東京宝塚劇場)

 

「パンフレット」より

女坂(東京宝塚劇場)

桜田はたしかに幸運だった。が、その幸運は自らが持っている天性の才能が呼び寄せたものではないかと思う。

 

津田類(演劇評論家)
歌手としてデビュー、少年少女たちのアイドルだった桜田淳子が、突然とも思える形で舞台女優に転進、しかも『おはん長右衛門』のおはんを可愛いく演じたあとの二作目、『アニーよ銃をとれ』でいきなり芸術祭優秀賞に輝やいたときは、正直いってびっくりした。
 彼女はたしかに幸運だった。
 が、その幸運は自らが持っている天性の才能が呼び寄せたものではないかと思う。
 たしかにあのミュージカルのアニーの演技は、努力してできるものではなかった。
 歯切れがよく、歌も演技力もはずんでいた。
 あの少女のはつらつとした動きや表情はやはり天性のものといった方がよさそうだ。
 このあと演じた奇妙な物語のミュージカル『リトルショップ・オプ・ホラーズ』初演のオードリーがまたよかった。
 歌はもちろんだが、踊りがさらにしっかりし、しかもとてもセクシーだった。
 宝田明や真田広之を相手に、少しもものおじしない演技にも進歩のあとが見えた。
 なんと成長の早い人だろうと思った。
 ところで彼女には、もうひとつ忘れてならない舞台がある。
 谷崎潤一郎の代表作『細雪』のこいさん、妙子である。
 淡島千景、新珠三千代、遥くららの三人の姉で演じたのが六十年五月の東宝劇場で、谷崎の生誕百年を記念しての公演だった。
 この作品は映画にもなったが、舞台でも何回も上演され、妙子役も何人かいるが、桜田の妙子が一番歯切れがよかったと評判である。
 四人の美貌な娘たちのそれぞれの生き方を描いたこの作品で、三人の姉たちとは正反対の行動をとり、駆け落ちをしたり男を替えたり、いってみれば自由奔放な生き方をしながら、しかも少しも憎めない、むしろお人好しの面さえある魅力的な娘で、演じ方では主役にもなり得る役だ。
 その妙子を、これほど伸び伸びと演じ切るとはと、実はびっくりさせられたものだ。
 彼女にはよくびっくりさせられるが、こんどもひとつびっくりさせられるような舞台を期待したいものだ。

昭和59年02月

 
 
五十鈴十種第一回記念
帝劇新春特別公演
円地文子=原作
菊田一夫=演出
堀越 真=潤色
水谷幹夫=演出
東京宝塚劇場
昭和63年1月2日〜1月27日
 
 
演 出 補:阿部 照義
装  置:石井みつる
照  明:沢田 祐一
昔  楽:橋 場 清
効  果:本間  明
衣  裳:八代 泰二
演出助手:井上  思
 〃  :坂本 義和
 〃  :矢野  学
 〃  :岸野  由
 
製  作:酒井喜一郎
 〃  :細川 潤一
 

山 田 五十鈴

新 珠 三千代

桜 田 淳 子

清水 幹雄
      和田 弘子
      安宅  忍

武士 真大・鈴木 正勝
中村 又一・阪東豊之助

菅野 園子・河西 陽子
高橋ひとみ
染川 ユリ・高橋志麻子

根岸由里子・山本  篤
山田 雅彦
八ツ波ゆかり・岡田里美

曽我廼家 鶴蝶

松 山 政 路

長屋 千世・飯岡真奈美・寺山 理江
林 真奈美・藤木 陽子・近藤 幸介
渡辺  隆・仲沢 満利・館  信行
○ 
松岡 富美・田中 美帆・原口三知子
山口 未歩・板橋 貴博/斉藤ちどり・清水千恵子 
○ 
古川 惠子・梅原 妙美
安藤 麦紳
棟形 寿恵・小林 茂樹
○ 
松川  清・今藤乃里夫
渡瀬由美子・吉田 光一
○ 
江 原 真二郡
○ 
司   葉 子
 

 

ものがたり
 明治十五年、夏。
 福島県の大書記官(副知事)白川行友の官邸では女中や書生達が早急な離れの普請に右往左往していた。
 そんな中にこの家の主婦、倫が東京から須賀と言う美しい娘を伴い戻って来る。
 須賀は倫が東京で探して来た夫の妾になる女だった。
 ……夫の妾を妻が探す……とは!
 自由民権の壮士、花島恭次郎に「人買い!」「ろくでなし!」と叫ばれた時、倫の心に正に地獄からの風が吹き抜けていった。
 
 行友は一等警視となり居を東京に移した。
 その広大な屋敷に須賀には叔母とも頼む、久須美きんが心配で訪ねて来る。その心配とは行友にどうも新たな女が出来たらしいが須賀の立場はどうなるか?ということだった。
 その女は由美という元武家の娘だった。
 気丈に見えても、須賀の優しさ、暖かさに触れ泣き出す由美を見てきんは何故かホッとするものを感じるのだった。
 
 鹿鳴館で行友は正に幽霊に出合うのだった。自分が捕え牢に送り死んだと思っていた男、花島に満座の中で「君達の時代は終る」と宣せられたのだ。
 時代は確かに動いていた。行友も認めなければならぬ時の流れだった。
 
倫の長男道雅は人間的に問題があった。その道雅の二度目の妻、美夜が婚礼の翌朝、夫
が想像以上に粗暴なので実家に戻ると言い出し倫がなんと宥めても聞かなかった。
 だが行友が道雅を旅に出して、美夜は私と江ノ島に行こうと誘うと急に気を変え、行友に甘えかかるのだった。
 そんな美夜に薄気味悪さを覚える倫だった。その気味の悪さが恐ろしい事件を引き起す。それは、行友と美夜が江ノ島で道ならぬ係に陥ってしまい、今でも続いているというものだった……。
 最初に見た者に幸をもたらすという二十六夜の月が眩い光を投げかけても倫の心は暗い闇の中にあった。
 
 由美の結婚に関して、倫は白川家の恥が漏れるのを恐れ甥の岩本を勧めるが、由美は、真意を見抜き「白川家の勝手で嫁ぐのではなく、自分の意志で岩本さんと結婚する」と言いきる。
 だが由美が実は前から岩本が好きだったのを知った倫は心から祝福するのだった。
 
 由美夫婦の店に行友と美夜が来て、由美に指輪を買ってやると言いだした時、丁度来合わせていた須賀の怒りが爆発する。
 「由美さんは指輪よりもっと大切なものを手に入れたんです!!」
 心密かに結婚に憧れる想いが、その叫びになったのだった。だが、相手の男に真実がな
いことも知ってしまう須賀であった。
 
 美夜は結核に罹り瀕死の床にあった。
 倫が不幸な結婚を詫びると、美夜は「悪いのは私、私の中の女……」と言い、悲しく死んでいくのだった。
 女とは……女として生きる人生とは……倫の心に美夜の……由美の……須賀の……そして自分の姿が浮かんで来るのだった。
 だらだらと長い女の坂道がそこにはあった。
 
 
 
 

  


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