澤地 桜田淳子さんの、言ってみれば本質的なものを最初に見抜いてあなたを登用した人は長谷川一夫さんになりますか。
桜田 そうです。すごく印象的だったのは、事務所の方に、「この子はちゃんと守ってあげないかんよ」って上方言葉で話されたことです。
澤地 そういう見る目を持った人に出会えることができたのはお幸せなことでしたねえ。
桜田 よほど先祖の心がけがよかったんです。よく天性だとか言いますけれども、そういうものは信じませんね。確かに自分が好きでこの道に入ったわけですが、これはなにかに動かされてるなという気がしてならないんです。だから神様は絶対存在するんだ、ということを思わずにはいられないですね。
『サラの瞳』のことば
澤地 今、あなたはオフ・ブロードウェーで上演したミュージカル「リトルショッブ・オプ・ホラーズ」を宝田明さんや真田広之さんたちとやってらっしやるわね。私は正直なことをすぐ言ってしまうけれども、観ていて、あなた、悩んでいるんじゃないかと思った。あなたは声もいいし、歌も上手な人だけど、あの舞台では上手に歌う必要がないんですよね。メロディーも実にムチャクチャで、あれは歌じゃないですね。
桜田 そうですね。ほんとに。
澤地 人気歌手として脚光を浴びたあとで思い切ってあのミュージカルに出るのは、自分で築いてきたものを一回捨てることね。
桜田 そうなんです。でも私、二十五過ぎてから、突然、これまでのことを一回捨てよう、と思ったんです。ふつう一枚看板で公演ができるようなところまでくると、おいしい仕事しか欲しくなくなるのですよ。これじゃいけない、脇でもいいからほんとにいい役をやりたいなと思ったのです。
澤地 あのお芝居、面白かった。終りの方では怖かったし。お芝居の主人公はオードリー・2という植物だと思うんだけど……。
桜田 シーモアというさえない花屋(店主・宝田明)にいる店員(東田広之)が恋人(桜田淳子)を得たいし、お金も欲しいし、名誉も欲しいというところから人を殺して花(オードリー2)に食べさせていく。結局は自分も大きくなった花に飲み込まれて死んでしまうという大筋ですけど。
澤地 何となくどこかで人間の欲望とか、戦争とかいうものと絡んでいますね。オードリー2が貪欲に食べる食べ物とは生きた人間の体とか血ですもんね。そしてそれを与えれば、願いはかなえてくれるのよね。
桜田 最後は登場人物はみんな食われて、お花になってしまう。
澤地 劇場の入り口であなたが文章と絵を書いたご本の『サラの瞳』を買ったのよ。
桜田 ああ、恥ずかしい。
澤地 あなたが、絵が上手なのとお話が上手なのでびっくりした。
桜田 お話を書いたのは初めてなんです。小さいころから日記はずっとつけていて、大学ノート、こんなに(六、七十センチぐらいの厚さ)あるんです。
澤地 まあ、そんなにあるの。
桜田 でも、燃やそうと思ってるんです。
澤地 およしなさい、それは。あとで後悔なさるわよ。私、感心したのはね、善意のかたまりみたいなパウニルという主人公のおじいさんについて、本のあとがきで「本当に自分もなんとかパウニルに近づきたい、という気持ちでいっぱいになりました。もし、私たちが、″ひとつの目標を達成できない″とするならば、それはきっとあまりにも人の目を、又、言葉を気にしているからではないかと思うのです。見えない″神様の目″があることを忘れてはいけませんね。人が見ているから良いことをするのではなく、人が見ていなくとも当然のこととしてやれる人でいたい……と改めて思いました」と書いているところでした。私は、あなたにも人の目とか言葉というのを気にして悩んだ日があったんだと思ったのね。違うかしら。
桜田 ええ、そうです。もっと図太くなりなさいって言われるんです。
外国で見てきたこと
澤地 いろいろお話してきましたが、あなたご自身は、戦争とか、原爆についてどういう
ふうにお考えになりますか。
桜田 戦争というものは、人間と人間の喧嘩が大きくなったようなもんで、人間のエゴがそうさせたんだと思うんです。実際、人間関係のトラブルが世界中にあり、それがよくならないと戦争をストップさせることはできないなと思います。日本にいると戦争は絶対起きないみたいに思いがちですけども、とんでもない話ですね。私は、そういう世界を知るためにももっと外に出たいなと考えているんです。去年ルーマニアに行ったんですけど、自由の尊さみたいなものをほんとに感じて帰ってきました。あそこでは人びとの目が死んでましたから。
澤地 アメリカの人の目はどうです。
桜田 死んでますね。ハーレムでも運動家は一生懸命がんばってるみたいですけど、黒人たちは相変らず怠け者だし。ミュージカルを観れば楽しいけれども、現実には、道を歩いてる人には失業者もいるし。
澤地 私はそんなにあちこち歩いてるわけじゃないけれども、どこの国へ行ってもこのごろは女の人が生き生きしてて、男の人たちの目が死んでるなって思うのよ。ルーマニアではどうでしたか。
桜田 男も女も似たようなものですけれど、それにしても男の人たち、やさしすぎるんでしょうか。
澤地 追われる身のうらがなしさのようなものを感じさせる男性がふえた(笑)。男たちは新興階級の女たちにしてやられたみたいに、みんながっかりしちゃって、くたびれちゃったようよ。フレー!フレー!、って言わなくちゃ。
桜田 もっと厳しくていいと思うんですけれども。やさしすぎると思います。
澤地 どんな役をこれからやっていらっしゃりたいですか。
桜田 どちらかと言うと戦争物もそうですけど、歴史の中で生きた女性とか……。現代っ子というのはどうも……。
澤地 苦手なのね。
桜田 そうです。
澤地 あのね、あなたは実にきれいな脚してらっしやるのね。でも、あなたはもっとしっかり体ができたほうがいいと思うのよ。細すぎるんじゃないかしら。
桜田 そうですね。食べてはいるんですけれど。だからあまり人の目とか言葉に……。
澤地 悩まされずに。
桜田 でも、図太くなるのは三十すぎぐらいからかなと思いますね。
澤地 そう。ホラ、長距離走ったり、ジャンプなんかするときに、最初のうちはゆっくり助走するじゃありませんか。
桜田 いまは助走段階ですね。
澤地 そう。二十六で助走段階って言っていられる人生はお幸せよねえ。
桜田 幸せですね。そう思います。私の仕事はこれからだと思います。
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