"My Pure Lady" Junko Sakurada
桜田淳子資料館 管理人室
SONOさんの『新・淳子ヒストリー』
SONO.34 新シリーズ K 続の時代
SONO - 書き下ろし
[九通目のラブレター]
2月のある日、高校の卒業式を間近に控えた、○○子です。
就職、進学に向けての、生徒の準備があるため、ここ何年かは、早めに、卒業式を行うのが通例となっております。
就職も地元の企業に無事に決まり、○○子もまた、他界した母親と同じように、母親の生まれた故郷で暮らす決心をしたのです。 今は就職の準備で御忙氏の○○子ですが、夕食前、私が自分の部屋でくつろいでおりますところに、○○子が訪ねて来ました。
いつもと、違う○○子の様子に、(こ、これは、お約束のやつか)と感じました。
私は、これから、始まるであろう、感動の場面が目に浮かびました。
これから、○○子から、高校3年間の私に対する、感謝の言葉が発せられ、私と○○子は、肩を抱き合い、涙する、そんな場面が今、始まろうとしているのです。
私は○○子の顔を見ただけで、もう、涙をこらえきれずに、うるうるとして、今か今かと感動の場面を待っておりました。
「兄ちゃん、なんで、泣いているの」
「いいや、別に、なんでもないんや」
「でも、泣いてるやん」
私は感極まり
「それは、それは、俺が泣いとるのはな、卒業式が終わると、○美ちゃんのセーラー服姿が、見られないと思うと残念で、残念で・・・」
と私は日ごろから、思っている本音をついつい、言ってしまいました。(大笑)。
私は次にくる、○○子の言葉を待ちました。
「私も、高校卒業したら、お兄ちゃんにセーラー服姿を見せられないね。ごめんね。 そして、3年間、ありがとうね」
と○○子が涙ながらに言うモノクロのシーンが次に浮かびました。
が現実は
「○美ちゃんのセーラー服姿だって、兄ちゃん、あんた、やっぱり、変態だわ」
と言って、○○子が部屋から出て行ってしまいました。
「えっ、もう、行っちゃうの。 ○○子、あの、なんか、俺に用事があったんじゃないの。 あれ〜。そんな〜っ。1人にしないで〜っ」
教訓:[ 策士、策におぼれる ]。(大笑)。
その次の日の夜、携帯が鳴りました。
「おう、元気か、今から?、OK、OK、じゃ、いつもの店で8時な。了解」
私はいつもの店を約束より少し遅れて、夜8時過ぎに訪ねました。
その店は深夜3時までやっている、弾き語りのお店で、渋い木目調の店内でカウンターだけの和座様式で、7人座れば満席の店内、そして、拓郎さん、陽水さん、かぐや姫世代の50才過ぎのマスターが、独特の高音で愛用のフォークギターを手に弾き語る、そして、機関銃トークで笑いを誘う、なかなか、味のあるお店です。
飲み物は、日本茶専門で、昆布茶、梅昆布茶など、全国の銘茶が数多く揃う、これまた、渋いメニューのお店です。
特製の大根の葉っぱの漬物をツマミに、お茶を飲み、マスターの弾き語り、締めにお茶漬けで、お腹いっぱいになります。
余談ではありますが、お茶のメニューの中で、厳選した、カツオ節をナイフで削り、特製粉抹茶とブレンドし、少量の味噌を混ぜ合わせ、熱湯を注いで飲む(まいう〜茶)は人気がありますが、それって、味噌汁バイと思うのは、私だけではないはずです。(大笑)。
週末などは、フォーク世代の人達が、お店に集まり、時には、マスターの弾き語りで、時には、皆で声高らかに明け方まで、歌い合い、大繁盛とまではいかないまでも中繁盛(笑)の小規模、大満足のお店です。
Gパン一筋の洋風の装いのマスターが和風の日本茶と軽食とフォークソングでもてなす、昔懐かしい哀愁の香り漂うお店です。
もちろん、中島みゆきさんの曲も売りのひとつで、淳子さんの名曲『しあわせ芝居』、『化粧』など、来店する、お客さんの中に淳子さんのファン(女性)がいまして、よく歌っていまして、それが、店の名物となっています。
淳子命の私も負けじと、私は数年前に、『サンタモニカの風』をマスターに聴いてもらい、アレンジしてもらい、それから、時々、マスターの弾くギターの音色をカラオケ代わりに歌っています。
『サンタモニカの風』、これが、フォークギターに良く合いまして、私は気分よく、歌っているつもりなのですが、万人に戦慄する旋律≠ニ呼ばれ、音程の漫才師=Aカラオケ虎の穴=A音符のリアス式海岸=Aマイク・クラッシャー=A音響の場外乱闘=Aと数々の異名をもち、破壊的歌僧≠ニ中国語バージョンの呼び名まで存在するほど、大音痴の私が外しまくる歌は違う意味で、この店の名物になっているそうです。(大笑)。
私はこの店にもうかれこれ、10年ちかく、通っています。
店内に入りますと、私と待ち合わせた人はすでにカウンターの隅に腰を下ろし、マスターと雑談中でした。
店内には、まだ、お客は私達だけでした。
「マスター、こんばんにゃ」
「おう、オジンです、オバンです」
と毎回の型どおりの挨拶をかわし(笑)、私は、待ち合わせの人に声をかけました。
「ごめん、こめん、遅れちゃったかな」
私は女性の隣に座りました。女性は私に微笑みをくれました。
「今日は、何から始める?」
とマスターが、私にお茶の注文を聞きました。
私は、30種類ぐらいある、お茶のメニューを見ながら、思案し答えました。
「ど・れ・にしようかな。 う〜ん、まずは、芸能音楽の50で」
「お前は、グランプリ(クイズ)か〜っ。 しかも、いきなり50かよ、10からしか、選べませ〜ん」
「じゃ、やっぱり、はらたいらさんに50000点〜」
「お〜っ、太っ腹〜って、ダービー(クイズ)か〜っ。 あのな、俺が聞いているのは、クイズの問題じゃなくて、お茶の注文なんだよ〜っ」
「じゃ、マスター、いつもの奴ね」
「結局、それかい〜っ。はやく、言え〜っ」
とマスターと私のレトロなツボを押さえた、やり取りを隣の女性は腹を抱えて、笑っていました。
しばらくして、私達の前にお気に入りの梅昆布茶大盛り、二杯が運ばれてきました。(笑)。
「やっと、○○子ちゃんも卒業やね。就職も決まったし良かったね」
「ありがとう。もうすぐ、あいつも社会人だぜ。ちょつと、心配かな」
「○○子ちゃんは、大丈夫だって、心配ないって」
「そうだといいんだがね。母親に似て、気が強いからな。それに、よく、泣くし」
「あの子は、思いやりがあるし、やさしいし」
「まあ、その点は俺に似ているんだけどな。(笑)」
「あんたと○○子ちゃんは、従兄妹同士だったね」
「結構、歳が離れているので、たまに、親子に間違われるんだよな。 この前もあいつの高校の授業参観の時さ、父兄の人に、○○子ちゃんのおとうさん?って聞かれて、嬉しいような、哀しいような気持ちでさ。 俺、まだ、結婚もしてないのにさ」
「結婚ね〜、うふふ。(←かなり、意味深な笑い)。 ところでさ、私のことはどうなっての?」
と隣の女性は私が誘導尋問にひっかかり、かなり、ご満悦の御様子。(笑)。
「え、お前のこと」
「あんたと10年前に知り合って、あんたは私に、○○子ちゃんが高校卒業して社会人になるまで、待ってくれって言ったわね。 ○○子ちゃん、無事卒業するし、お勤めも決まったし、私のことはどうなってんのかな〜。 私も、もう35だしね〜」
私は今から10年ほど前、姉ちゃんが他界し、地元に戻り、○○子の将来を出来る限り見守る決心をした後にしばらくして、ある女性と知り合い、その時に事情を女性に話し、○○子が高校を卒業するまで、社会人になるまで待ってくれと女性宛てにラブレターを書いたことがあります。
マスターは、トイレの掃除とか言って、なかなか、出てこないし、突然のことに、私は何をどうしていいのか、考える人状態でした。
「そ、そうか〜、もう、あれから、10年か。 お前と俺が知り合ったのは、あれは、忘れもしない、夏の暑い日、いや、あれは、忘れもしない、冬の雨の日、じゃなくて、忘れもしない、春の・・・」
「忘れとるやないか〜い」
「忘れたくても、思い出せない」
「バカボンのパパかいな」
「お前のこと?。 そ、そりゃ〜、つまり、単刀直入に言って、結論を先に言うと、なんて言うか、その〜、やっぱり、いわゆるひとつの、10年は・・・」
「どこが、単刀直入だ〜っ。 しかも、長嶋監督の物まね、ぜんぜん、似てねーし」
お約束のボケとツッコミの間、私は言葉を連発するたびに、自分を窮地に追い込んでしまいました。(笑)。
「だから、私のことは、どうなってんの?」
「どうなってんのってそりゃ〜。 え〜と、んじゃ、今から、お前に、求愛(古〜いっ)の言葉を言ってもいいかな?」
私は、言葉を発するたびに、顔が、ポッ、ポッ、ポッと赤くなり、ついには、鳩になってしまいました。(笑)。
私の鳩人間の様子をみて、彼女が言いました。
「『いいとも』って言えばいいの。 あはは、いちいち、言う前に聞く人は珍しいわ。 あんたらしいし、改まって言われても、あんたが言ったら、ギャグに聞こえるし、気持ちは充分、今、頂きました。 まあ、苦労を承知でって奴だわ。あはは〜。 それに、10年前にあんたから、もらった、ラブレター、今でも保存してあるから、これが、証明書かな。 でもさ、あんたのラブレター、傑作だったわね。あっはっは〜。 ・・・それに、生き急いだ人の分まで、あんたには、自分の時間をゆっくりと過ごしてほしいしね。 ○○子ちゃんも卒業して、お勤めするし、これから、あんたは、自分のために、急がないで生きてほしいしね。 その中で私のことは、たまに思い出してくれればいいのよ。 男と女なんて、この先、なにが起こるかわからないもんね。 それが、楽しみでもあるのよね。 それにしても、あんたが、くれた、ラブレター、今、思い出しても傑作、傑作。あっはっは〜」
彼女が大笑いする中、私は雰囲気つくりに集中してしまい、肝心の求愛の言葉をとうとう言えませんでした。
教訓:[ 策士、策におぼれる ]。(連笑)。
ようやく、トイレの掃除を終えた(笑)、マスターが指定席に腰を降ろしました。
彼女の笑い声を聞きつけて、マスターが問いかけました。
「おっ、盛り上がっているバイね。何の話?」
「実は、10年前に、私さ、この人(私)からラブレターをもらってね〜」
「ふーん、お前がラブレターね〜」
とマスターは私の弱みを知って、にやりとしました。
「あっ、マスター。 ・・という訳でさ、10年前に、この人が私にくれた、ラブレターの文章はさ、なんかの歌の詞のパクリでさ。 今、思い出して笑っていたところなんですよ。あっはっは〜。 その歌、歌ってよ。あっはっは〜」
と彼女は笑いが止まりません。
10年前に、彼女宛にラブレターを書いた時、文才に欠ける私は、文章を思いつかずに、結局、ある歌の詞を盗作して、同じ文章を書いたことがあります。彼女はそれを知っていて、思い出し笑いをしていたのです。
「その、歌、歌って下さいよ、マスター」
と彼女がリクエストしました。
「どんな歌かいね?」
とマスターの問い掛けに、私が店内に貼ってある、かぐや姫のポスターを指さすと
「ああ、あのころ、よく歌ったやつね。OK、じゃ、歌うバイ」
とマスターが応えました。
やがて、マスターがギターを爪弾きながら、歌い出しました。
彼女は、私が彼女に宛てた、ラブレターの文章の盗作部分をさがしだそうとして、マスターの歌にじっと聞き入っていました。
店内には、軽快なギターの響きに乗せて、歌の2番のサビの部分が流れていました。
「あっ、ここの、詞だよね。この所の、文章だよね」
と彼女は、歌っている、マスターに気遣いをみせ、そっと、私に言いました。
私は黙って、うなずきました。
二人は、2杯目の梅昆布茶を飲みながら、マスターの歌う『風の街』に耳を傾けました。
はぶれもん、続の時代。私43才。○○子、旅立ちの時でした。
生んでくれた人がいる
男に育ててくれた人がいる
存在を見守ってくれた人がいる
大好きな人がいる
俺のために泣いてくれる人がいる
待っていてくれた人がいる
忘れられない人がいる
大切にしたい人がいる
詫びたい人がいる
生きていることを感謝したい人がいる
雨の日に、晴れの日に
ラブレターという桜の花束を贈るのです
次の話へ
淳子さん、デビュー32周年おめでとうございます。
今でも、これからも、変わることのない、淳子さんへの想いを込めて、この九通のラブレターを桜田淳子さんに捧げます。
※ 山田パンダさん(元かぐや姫)が歌った『風の街』は、桜田淳子さんが出演したドラマ『あこがれ共同隊』の主題歌です。(by SONO)
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